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苔の研究レポート

005 苔の質問と応答

 近年、コケに対する関心は、世界中に広がっています。苔神に寄せられる国外からの問い合わせを紹介します。
 平成12年6月に、アメリカからこんなメールが飛び込んできました。

■問合せ: 12/6/5
初めまして。
安藤啓子と申します。アメリカ在住のJack Pollockに代わってメールさせていただいております。
Jackはアメリカでいわゆる「盆栽用キョウト・モス」と呼ばれている、特定の苔の種を探しております。
苔の写真を添付しましたので、ご参照いただけたらと思います。
この苔はなんという苔でしょうか。また貴社でこの苔の種は取り扱っていらっしゃるでしょうか。
お忙しい所恐縮ですが、ご返答いただけましたら幸いです。
宜しくお願いいたします。
安藤啓子/ Jack Pollock
 
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■応答:12/6/6
安藤 啓子 様
メール拝見しました。
キョウト・モスと呼ばれる苔の写真も見ました。
正確な同定はできませんが、一見して、濡れた状態のギンゴケ(Bryum argenteum Hedw.)、あるいはハリガネゴケ(Bryum capillare Hedw.) 、かな?と思われます。
同じハリガネゴケ属でよく似ています。
ギンゴケは乾燥状態にすると、先端部分が白く輝いて見えます。
ハリガネゴケは乾燥状態にすると、葉が縮れたように見えます。
苔の種として市販はしておりませんが、少量でしたら用立て致します。
また、苗としても用意できます。
アメリカで和風の庭園や盆栽などが人気を博していると聞きますが、実情をお知りでしょうか。
報道などで見聞きしていると、庭園の苔や盆栽鉢の苔が、実は、あまり本格的な苔でないことにがっかりしています
キョウト・モスも、日本では本来は、ヤマゴケを付けるところですが、ヤマゴケが希少であること、ヤマゴケの育て方を知らないことなどから、手軽なギンゴケやハリガネゴケを用いるのです。
せっかく日本の文化としての苔を使うなら、本格的な苔を勧めるべきだと思っています。

それはさておいて、苔の種は播種から育成して、見ごたえのあるコロニーを形成するまで、1~2年ほど掛かります。ご承知置き下さい。
なお、栽培方法、育成方法はお教えいたします。
苔神工房 北川義一

■その後
 この後、何度もメールを交換して、6月19日にアメリカへ「苔の種」を送付することになりましたが、植物の輸出入の知識がなく、どうしたものかと、新潟の検疫所を訪ねてみました。その結果をアメリカへメールしました。

安藤 啓子 様
苔の種のサンプルを米国へ送付することに関して、調査してみました。
その件に関して、いくつかの問題点が分かりました。
サンプル送付の際、インボイスinvoice を添付しますが、蘚苔類(コケmoss )の輸出入には、検疫証明書が必要です。
新潟の植物防疫所で調べて貰ったのですが、これまでコケの輸出例はなく、検疫証明でどんな検査が必要か、分からない、ということです。
検疫証明の内容は様々で、目視だけの検査で終わる場合もあれば、ラボテストや圃場検査などを必要とする場合もあるそうです。
圃場検査が必要となれば、出荷まで1年以上かかることもあるそうです。
どのような検査が必要かは、米国の検疫所 USDA が決定するようです。
通常は、輸入業者が、USDAに申請して、輸入許可を取得します。
その許可条件に従って、日本の検疫所が検査をし、検疫証明書を発行します。
ちなみに、検疫証明書を添付しないで、蘚苔類(コケ)を送ることはできそうにありません。
新潟の植物防疫所の担当者によれば、今回送付する予定の「苔の種」は
・文字通りの植物の種子 (a seed) ではない、
・何かと言えば、( the cause of propagation ) か?
・蘚苔類の栄養体繁殖の生態の説明も必要か?
・生きている植物ではあるが水洗い、乾燥などの加工をしている、
などなど、詳細の説明がなされないと、許可条件が厳しくなるのではないか、と話しています。
送付する際の包装状態と、内容物の状態を、画像で送ります。
この問題に関して、Mr. Jack Pollockと相談して下さい。
苔神工房 北川義一
 
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■その後
 最終的に、もし検疫で引っかかって届かなくても構わないから、苔の種を送れ、との了解のもとにアメリカへ苔の種を送りました。
 少量の送付だったせいか、無事、届きました。その後も継続して苔の種を輸出しています。でも、アメリカでのコケの栽培はあまりうまくいってないようです。
 
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 栽培の様子について写真が送られてきましたが、培土の種類が分かりません。赤茶色の大きな塊が何なのか、メールで尋ねても要領を得ません。栽培がうまく行かないのは、使用している井戸水の影響かも知れないと連絡が入りましたが、通訳を介しての質問のやり取りは、とても難しいと感じました。コケに関する専門的な用語が通訳ではなかなか理解しがたいことが分かりました。
 相手のJack Pollockの作っている盆栽の写真も送られて来て、こっちは、本格的なのが分かりました。なんとか、コケの栽培がうまく行くように連絡を取っていますが、成功するまで、何年かかるか、今の所、分かりません。
 by 苔神